セキュリティの手引き
サイバー保険の請求の流れ|事故のあとにやること
公開:2026年10月14日/最終更新:2026年10月14日/Moshiru 岡﨑 悠太
結論:事故に気づいたら、被害を止める初動と並行して、その日のうちに保険会社か代理店へ連絡します。保険法でも、損害を知ったら「遅滞なく」知らせることになっています。そのあとは約款で対象を確かめる→費用を出す前に相談→書類を出すの順です。補償の中身は商品ごとに違うため、手元の証券・約款と保険会社の案内に従ってください。
請求の流れ- 1第一報その日のうちに
- 2対象を確かめる証券・約款
- 3費用の前に相談発注・約束の前
- 4書類を出す請求書など
- 5支払い調査のあと
請求の5ステップ
1. 初動と同時に、保険会社へ第一報
ネットワークからの切り離しなど、被害を止める作業と並行して連絡します。日本損害保険協会も、事故が起きたら保険会社か代理店に「できるだけ早く」連絡するよう案内しています。全部分かってからでなくて構いません。
第一報で伝えること- 証券番号と会社名
- 気づいた日時と、誰が気づいたか
- 起きていること(分かる範囲)
- すでにやった対応
- 担当者の連絡先
商品によっては、事故のあとに専門の業者を紹介するサービスが付いています。第一報のときに「使えるサービスはあるか」も聞いておくと、調査会社を探す手間が減ります。
第一報で聞くこと1付いている支援業者の紹介など
2必要な書類見積書・領収書など
3事前の連絡発注の前に要るか
2. 証券と約款で、対象を確かめる
日本損害保険協会は、サイバー事故で生じる費用を次の3つに分けて説明しています。どこまで補償されるかは保険会社やプランで違うので、自社の約款で確かめます。
| 費用の種類 | 例(協会の説明より) |
| 事故対応費用 | 事故原因の調査、メディア対応などの相談、お詫び状やコールセンター設置などのお客様対応、法律相談 |
| 損害賠償費用 | 情報が漏れた相手や、業務を止めてしまった取引先への賠償 |
| 利益損害・営業継続費用 | システムが止まって失った利益(逸失利益)など |
同じ協会のページでは、ランサムウェアの被害で支払った身代金は、サイバー保険の対象にならないとされています。
対象になるか補償の範囲は保険会社・プランごとに違う
3. 費用を出す前に、保険会社に確かめる
調査会社への発注、コールセンターの開設、お詫びの品、相手への賠償の約束。お金が出ていく前に「対象になるか」「事前の連絡が要るか」「どの書類が要るか」を保険会社に確かめます。急ぐときも、電話で一言伝えてから進めると、あとで食い違いが起きにくくなります。
お金を出す前に
4. 記録と書類をそろえる
保険会社から、所定の保険金請求書と必要な書類の案内があります。必要な書類は請求の内容で変わるので、案内に合わせて集めます。サイバー事故では、たとえば次のようなものが手元にあると話が早く進みます。
手元にそろえておくもの- 事故の時系列のメモ
- 画面の写真・ログ
- 業者の見積書・請求書・領収書
- 調査会社の報告書
- 取引先とのやり取り
5. 調査のあと、支払い
保険会社は、事故の原因や損害の額を確かめるために調査をします。協会の説明では、支払いは原則として請求が完了した日を含めて30日以内で、特別な照会や調査が要るときは延びます。保険金を請求する権利は、保険法で3年で時効になります。
支払いと時効の目安30日以内支払い請求の完了から(原則)
3年請求の時効保険法による
特別な照会・調査が要るときは支払いが延びる
契約者が守ること
協会は、事故のあとに契約者が負う義務として、次の3つを挙げています。正当な理由なく通知が遅れたり、調査に協力しなかったりすると、支払われる額が減ることがあります。
事故のあとの3つの義務1被害を広げない損害防止義務
2遅れずに知らせる通知義務
3調査に協力する書類の提出など
第一報は電話で済ませても、あとで日時と話した相手を記録しておきます。次のひな形を、そのままメモや社内の記録に使えます。
【保険会社への第一報メモ】
■連絡した日時:〇月〇日 〇時〇分
■連絡先:(保険会社・代理店名/担当者名/電話)
■証券番号:
■気づいた日時:〇月〇日 〇時ごろ(誰が、何で気づいたか)
■起きていること:(画面の表示、止まった業務など。分かる範囲で)
■すでにやった対応:(ネットワークから切り離した等)
■個人情報:含まれる/含まれない/不明
■保険会社から言われたこと:(必要書類、事前連絡が要る費用、紹介された業者)
■次に連絡する日時:
ひな形は例です。実態と違う内容をそのまま写さず、分からないことは「不明」と書いてください。
事故の当日にやること- 気づいたら被害を止める切り離す・記録する
- 同じ日保険会社へ第一報分かる範囲で
- 発注の前対象を確かめる見積書をもらう
事故の前に確かめておくこと
日本損害保険協会の「中小企業におけるリスク意識・対策実態調査2025」(2025年)では、サイバーリスク対策として「サイバー保険の加入」をしている企業は1割程度でした。入っている会社は、次の3つを紙にしておくと、事故の日に迷いません。
紙1枚にしておくこと- 証券番号と事故受付の電話番号
- 補償される費用の種類
- 付いている支援サービス
IPAのガイドラインでは、日本商工会議所や全国商工会連合会など、団体で入れるサイバー保険の制度も紹介されています。SECURITY ACTIONの宣言などで保険料が割引になる制度もあります。
よくある質問
被害がはっきりしない段階でも、連絡していいですか?
はい。保険法は、損害が生じたと知ったら遅滞なく知らせるよう定めています。「おそれ」の段階でも第一報を入れ、分かったことを追って伝えます。対象になるかの判断は保険会社がします。
警察や個人情報保護委員会への届け出は、保険とは別ですか?
別です。保険の請求をしても、警察への相談や、個人情報保護委員会への報告の義務はなくなりません。それぞれの期限で進めます。
保険会社と意見が合わないときは?
まず担当者に、どの約款の条項に基づく判断かを書面で聞きます。それでも解決しないときは、弁護士に相談してください。
参考にした資料
- 日本損害保険協会「サイバー保険」
- 日本損害保険協会「事故が発生したときの契約者などの義務とは?」
- 日本損害保険協会「損害保険Q&A 保険金の請求について」
- 日本損害保険協会「保険金の支払期限はいつですか?」
- 日本損害保険協会「保険金請求の時効とは?」
- e-Gov法令検索「保険法」(第14条 損害発生の通知、第95条 消滅時効)
- 日本損害保険協会「中小企業におけるリスク意識・対策実態調査2025」(2025年12月)
- IPA「中小企業の情報セキュリティ対策ガイドライン」