会社のセキュリティ教科書 第10部 10-10
フェイクニュースとデジタルタトゥーとは|社員のSNS投稿で会社を守る情報倫理
公開:2026年10月15日/最終更新:同/Moshiru 岡﨑 悠太
こんなときに役立ちます
- 社員のSNS投稿やフェイクニュースへの対応を決めるとき
- 自社についての根拠のないうわさが、ネットで広がり始めたとき
- 社員研修で、情報を広める前の確かめ方を教えたいとき
読み終えたあと、社内でこう言えます
「広める前に確かめる手順と、社員のSNS投稿のルールを決めました」
結論:情報倫理とは、情報を発信し、広め、使うときに守るべき考え方とふるまいのことです。フェイクニュースは、悪意のあるものだけでなく、善意で広めた誤りも含めて会社の信用を傷つけます。一度ネットに出た投稿は消しきれず、デジタルタトゥーとして長く残ります。総務省の調査(2026年7月公表)では、偽・誤情報に接した人の20.3%が何らかの形で拡散していました。会社としては、「広める前に確かめる」手順と、社員のSNS投稿のルールを決めておくことが要点です。
フェイクニュースとは?3つの種類の違い
フェイクニュースという言葉は広く使われますが、中身はさまざまです。専門家の間では、「本当かどうか」と「害を与えるつもりがあるか」の2つの軸で、次の3つに分けて考えるのが一般的です。
| 種類 | 意味 | 会社で起きる例 |
| ミスインフォメーション | 誤った情報だが、広める人に悪意はない | 社員が「〇〇で地震の予言」という投稿を、心配して家族のグループに転送する |
| ディスインフォメーション | うそと知りながら、だます目的で作り広める情報 | 競合を装った者が「あの会社の製品に異物」と偽の写真つきで投稿する |
| マルインフォメーション | 事実だが、人を傷つける目的で広める情報 | 元社員が、同僚の住所や家族の情報を、嫌がらせのためにさらす |
3つめは「事実だから問題ない」とはなりません。事実でも、人のプライバシーや名誉を傷つけることがあります。情報処理推進機構(IPA)の情報セキュリティマネジメント試験のシラバスでも、3つの用語が情報倫理の用語例に挙がっています。
どれくらい広がっているのか
総務省の「ICTリテラシーに係る実態調査」(2026年5月に15歳以上の5,640人を調査、7月公表)の結果は次のとおりです。
- ネットやSNSで偽・誤情報に接したかもしれないと答えた人:80.6%
- 見聞きした偽・誤情報を「正しい」「たぶん正しい」と思った人:48.4%
- 偽・誤情報に接した人のうち、何らかの手段で拡散した人:20.3%
同じ調査では、拡散した人のほうが、リテラシーの確認問題を全問まちがえた割合が高い結果でした(48.9%と24.7%)。確かめ方を知っているかどうかで、広めてしまう度合いが変わることがうかがえます。
デジタルタトゥーとは?会社にどう響くのか
デジタルタトゥーとは、ネットに出た投稿や画像が、コピーや保存によって広がり、消せずに残り続けることです。入れ墨のように消しにくいことから、こう呼ばれます。会社に関わるのは、次の2つの向きです。
| 向き | 例 | 起きること |
| 社員が加害側になる | 勤務中の悪ふざけ動画、客の個人情報が写った写真、取引先の悪口 | 会社名が特定され、取引の停止や採用への悪影響が長く続く |
| 会社が被害側になる | 根拠のない不祥事のうわさ、偽の口コミ | 検索結果に残り続け、売上や信用に響く |
投稿の内容によっては、法律の問題にもなります。刑法では、事実を示して人の名誉を傷つける名誉毀損(第230条)、事実を示さずに侮辱する侮辱罪(第231条)があります。うその情報で会社の信用や業務を害すれば、信用毀損・業務妨害(第233条)に当たりえます。どれに当たるかは事案によるため、判断は弁護士に相談してください。
自社が被害を受けたときは、SNSの運営会社に削除を求める方法があります。手続きは情報流通プラットフォーム対処法(旧プロバイダ責任制限法)で定められており、特定電子メール法と情報流通プラットフォーム対処法で説明しています。
ファクトチェックとは?広める前に確かめる手順
ファクトチェックとは、広まっている情報が事実に基づくかを調べ、結果を共有する営みです。認定NPO法人ファクトチェック・イニシアティブ(FIJ)も、同じ趣旨で説明しています。会社で社員に求めるのは、専門家のような検証ではなく、広める前の簡単な確認です。
- だれが言っているか:発信元の名前、所属、過去の投稿を見る。匿名の転載だけなら、まず疑う。
- もとの情報はどこか:官公庁や当事者の会社の公式発表など、一次情報までたどる。
- いつの話か:日付を確かめる。昔の写真や記事が、今の出来事として回ることが多い。
- 画像や動画は本物か:同じ画像が別の場面で使われていないか、画像検索で確かめる。生成AIで作った偽物も増えています。
- ほかの情報源と合うか:立場の違う複数の報道や資料で裏を取る。
- 急がない:怒りや不安をあおる投稿ほど、すぐに広めず時間を置く。
偽の画像や音声を使った詐欺の手口は、AIを悪用した攻撃で扱います。総務省は、ニセ・誤情報への向き合い方をまとめた教材も無料で公開しています。社員研修での使い方は社員教育と標的型メール訓練を参考にしてください。
たとえば社員40人の食品メーカーでは(架空の例)
菓子を作る社員40人の会社で、「この会社の工場で食中毒が出たらしい」という投稿が広がりました。実際には、別の地域の別の会社の話でした。
- 総務の担当者が投稿を保存し、事実と違う点を整理しました。
- 社長の承認を得て、会社のホームページとSNSで、事実を短く公表しました。
- 社員には「個人のアカウントで反論しない」「問い合わせは総務へ回す」と伝えました。
- 悪質な投稿は、運営会社に削除を依頼しました。
社員が個人で反論を始めると、言い合いになって話題が広がり、かえって残り続けることがあります。会社として1つの窓口から事実を出すのが、デジタルタトゥーを広げないコツです。
社員のSNS投稿ルールは、どう作ればいい?
社員の私生活の投稿をすべて禁止することはできません。会社が決めるのは、業務に関わる情報の扱いと、会社名が分かる状態での振る舞いです。ルールに入れる項目の例は次のとおりです。
| 項目 | ルールの例 |
| 書いてはいけない情報 | 顧客・取引先の情報、未発表の製品、社内の写真(画面や書類が写るもの) |
| 会社名を出すとき | 個人の意見であることを明示し、会社を代表する発言はしない |
| 広める前の確認 | 災害や事件の情報は、公式の発表を確かめてから共有する |
| 公式アカウント | 投稿できる人を決め、パスワードと多要素認証を管理する |
| 困ったとき | 炎上や誤った投稿に気づいたら、消す前に総務へ連絡する |
ルールは、情報管理規程やSNS利用規程として文書にし、入社時と年1回の研修で伝えます。規程の全体像は会社に必要な規程の一覧で扱います。
技術者倫理も同じ考え方
システムを作る人や管理する人には、技術者倫理も求められます。一般社団法人情報処理学会の倫理綱領(2022年6月改訂)は、次のような行動を求めています。
- 人格とプライバシー、知的財産を尊重する。
- 虚偽や悪意のある言動で、他者の評判を傷つけない。
- 事実やデータを尊重し、技術がもたらすリスクに配慮する。
情報を扱う専門家として、正しさを大事にする姿勢は、社員のSNSのルールと根っこが同じです。
チェックシートではこう聞かれる
| よくある設問 | 答え方の例 |
| 従業員のSNS利用に関する規程やガイドラインがありますか。 | はい。業務情報の投稿禁止と、会社名を出す場合の注意をSNS利用規程に定め、入社時に説明しています。 |
| 公式SNSアカウントの管理者と運用ルールを定めていますか。 | はい。投稿できる担当者を2名に限り、多要素認証を設定しています。 |
| 情報倫理やSNSの注意点について、従業員教育を行っていますか。 | いいえ。現在は未実施で、〇月の全社研修で偽・誤情報の確かめ方を扱う予定です。 |
規程がない場合も、予定を添えて正直に答えるほうが信頼されます。書き方はチェックシートの回答の書き方を参考にしてください。
試験ではここが問われる
SG・SPREAD・支援士
- 3つの区別:ミスインフォメーション(悪意のない誤り)、ディスインフォメーション(意図的なうそ)、マルインフォメーション(事実を害する目的で使う)。
- デジタルタトゥー:ネットに出た情報が複製され、消せずに残り続けること。
- ファクトチェック:広まっている情報が事実に基づくかを調べ、結果を共有すること。
- 関連する用語:コンプライアンス、技術者倫理、フィルタリング(有害サイトへのアクセス制限)もSGの用語例に並びます。
確認問題
問1 「事実ではあるが、特定の人を傷つける目的で広められる情報」を表す用語として、最も適切なものはどれですか。
- ア ミスインフォメーション
- イ ディスインフォメーション
- ウ マルインフォメーション
- エ ファクトチェック
答えと解説
正解:ウ マルインフォメーションは、事実を害する目的で使うものです。アは悪意のない誤り、イは意図的なうそです。エは情報の真偽を確かめる営みで、情報の種類ではありません。
問2 社員30人の工務店(架空)で、「この会社が手抜き工事をした」という根拠のない投稿が広がりました。最初の対応として、最も適切なものはどれですか。
- ア 社員全員に、個人のアカウントで反論するよう指示する
- イ 投稿を保存して事実を整理し、会社の窓口から事実を公表する
- ウ 投稿者を特定するため、社員が投稿者のアカウントに不正にログインする
- エ 何もせず、自然に消えるのを待つ
答えと解説
正解:イ 記録を残し、1つの窓口から事実を出すのが基本です。アは言い合いで話題を広げるおそれがあり、ウは不正アクセスに当たります。エは、ネットの情報が残り続けるデジタルタトゥーの性質から、適切とはいえません。
問3 災害時にSNSで「〇〇川の堤防が決壊した」という画像つきの投稿を見た社員が、取るべき行動として最も適切なものはどれですか。
- ア 急いで社内のグループに転送する
- イ 自治体や気象庁などの公式の発表と、投稿の日付を確かめてから共有する
- ウ 画像が鮮明なので本物と判断し、会社の公式アカウントで発信する
- エ 投稿者のフォロワー数が多いので、正しいと判断する
答えと解説
正解:イ 一次情報と日付を確かめるのが、広める前の基本です。画像の鮮明さやフォロワー数は、正しさの根拠になりません。善意の転送でも、誤りならミスインフォメーションを広めることになります。
よくある質問
社員の私的なSNSの投稿を、会社が禁止できますか?
私生活の投稿をすべて禁止することはできません。会社が決められるのは、業務で知った情報の扱いや、会社名が分かる状態での振る舞いです。ルールの範囲と理由を説明し、規程にして周知してください。
デジタルタトゥーは消せますか?
完全に消すのは難しいのが実情です。運営会社への削除依頼で元の投稿を消せても、コピーや保存された画像が残ることがあります。だからこそ、投稿する前の確認と、出てしまったときの早い対応が大切です。
ファクトチェックとは何ですか?
広まっている情報やニュースが事実に基づいているかを調べ、その結果を共有する取り組みです。日本では、認定NPO法人ファクトチェック・イニシアティブ(FIJ)などが活動しています。社員に求めるのは、発信元・一次情報・日付を確かめる簡単な確認で十分です。
この記事のまとめ
- フェイクニュースは、悪意のない誤り・意図的なうそ・事実の悪用の3つに分けて考えます。
- ネットに出た情報はデジタルタトゥーとして残るため、広める前に発信元・一次情報・日付を確かめます。
- 社員のSNS投稿のルールを規程にし、うわさが出たら会社の1つの窓口から事実を出します。
参考にした資料
- 総務省「ICTリテラシーに係る実態調査の結果公表」(2026年7月14日)
- 総務省「インターネットとの向き合い方~ニセ・誤情報にだまされないために~第2版」ほかの公表(2025年3月19日)
- 認定NPO法人ファクトチェック・イニシアティブ(FIJ)「ファクトチェックとは」
- e-Gov法令検索「刑法」第230条・第231条・第233条
- e-Gov法令検索「特定電気通信による情報の流通によって発生する権利侵害等への対処に関する法律」
- 一般社団法人情報処理学会「情報処理学会倫理綱領」(2022年6月改訂)
- IPA「情報セキュリティマネジメント試験 シラバス」Ver.4.0(2023年12月)