Moshiru

会社のセキュリティ教科書 第10部 10-3

刑法のサイバー犯罪とは|ウイルス作成罪・電子計算機使用詐欺罪の要点

公開:2026年10月15日/最終更新:同/Moshiru 岡﨑 悠太

こんなときに役立ちます

  • 社員や元社員による不正が疑われるとき
  • 退職者のアカウントが使われた、データが消された、送金データが書き換えられたなど、社内の出来事が犯罪に当たるのかを整理したいとき
  • SGや支援士の勉強で、ウイルス作成罪や電子計算機使用詐欺罪の違いをつかみたいとき

読み終えたあと、社内でこう言えます

「不正が疑われたときに残すログと端末を、手順にまとめておきました」

結論:刑法のサイバー犯罪とは、コンピュータやデータを悪用・破壊する行為を罰する刑法の規定のまとまりです。主なものはウイルス作成罪(不正指令電磁的記録に関する罪)、電子計算機使用詐欺罪、電子計算機損壊等業務妨害罪、電磁的記録不正作出罪です。他人のIDとパスワードで勝手にログインする行為は、刑法ではなく不正アクセス禁止法で罰せられます。社内で不正が疑われたら、会社がまずやることは罪名の判断ではありません。ログと端末を消さずに残し、警察と弁護士に相談することです。

刑法の主なサイバー犯罪は、ウイルス作成罪、電子計算機使用詐欺罪、電子計算機損壊等業務妨害罪、電磁的記録不正作出罪。不正ログインは不正アクセス禁止法

刑法のサイバー犯罪にはどんな罪がある?

刑法では、コンピュータで扱うデータを「電磁的記録」と呼びます。人の目では読めない形で作られ、コンピュータの処理に使われる記録のことです(刑法第7条の2)。主な罪を、条文と法定刑(法律で決められた刑の上限など)とあわせて並べます。

罪名(条文)どんな行為か法定刑
不正指令電磁的記録作成・提供・供用(第168条の2)正当な理由なく、ウイルスを作る・人に渡す・人のパソコンで動く状態にする3年以下の拘禁刑または50万円以下の罰金
不正指令電磁的記録取得・保管(第168条の3)人のパソコンで動かす目的で、ウイルスを手に入れる・持っておく2年以下の拘禁刑または30万円以下の罰金
電子計算機使用詐欺(第246条の2)コンピュータに偽の情報を入れて、不正にお金や利益を得る10年以下の拘禁刑
電子計算機損壊等業務妨害(第234条の2)コンピュータやデータを壊す、偽の指令を与えるなどして業務を止める5年以下の拘禁刑または100万円以下の罰金
電磁的記録不正作出・供用(第161条の2)事務処理を誤らせる目的で、権利や事実を証明するデータを不正に作る・使う5年以下の拘禁刑または50万円以下の罰金
私用文書等毀棄(第259条)権利や義務に関する他人の文書やデータを消す・使えなくする5年以下の拘禁刑(告訴が必要)

2025年6月1日から、懲役と禁錮は「拘禁刑」に一本化されました(法務省)。表の法定刑は、e-Gov法令検索で確認した2026年10月時点の条文によります。

ウイルス作成罪(不正指令電磁的記録に関する罪)とは?

一般に「ウイルス作成罪」と呼ばれますが、罰する行為は作成だけではありません。作る、渡す、人のパソコンで動かす状態にする、手に入れる、持っておく、の5つの段階が対象です。動かす状態にする行為(供用)は、未遂も罰せられます。

この判決では、閲覧者の同意なく仮想通貨の計算をさせるプログラムについて、意図には反するが社会的に許されないとまでは言えない、として不正指令電磁的記録に当たらないと判断されました。「勝手に動くプログラム=すぐ犯罪」ではないことを示した例です。

電子計算機使用詐欺罪と詐欺罪の違いは?

詐欺罪は「人をだまして」お金を出させる罪です。コンピュータは人ではないため、だまされることがありません。そこで、機械に偽の情報を入れて利益を得る行為を罰するのが、電子計算機使用詐欺罪です。

比べる点詐欺罪(第246条)電子計算機使用詐欺罪(第246条の2)
だます相手人コンピュータ(人をだましていない)
例うその請求書で経理担当者に振り込ませる送金システムに偽の振込データを入力し、自分の口座へ送金させる
法定刑10年以下の拘禁刑10年以下の拘禁刑

条文には「前条に規定するもののほか」とあります。人をだました詐欺罪に当たる場合は、そちらが優先されるという意味です。試験では「人を介するか、機械だけか」の区別がよく問われます。

社員・元社員の不正では、どの法律が関係する?

社内の不正では、刑法以外の法律も関係します。よくある場面と、関係しうる法律を整理します。実際にどの罪に当たるかは事実関係しだいで、最終的には捜査機関と裁判所が判断します。

社内で起きたこと関係しうる法律
退職者が、残っていた自分や同僚のIDでクラウドにログインした不正アクセス禁止法(3年以下の拘禁刑または100万円以下の罰金)
顧客リストや図面を持ち出して、転職先で使った不正競争防止法(営業秘密の侵害)。くわしくは著作権法と不正競争防止法
経理担当者が、ネットバンキングの振込データを書き換えて着服した電子計算機使用詐欺罪、業務上横領罪など
辞める直前に、腹いせで共有フォルダのデータを消した電子計算機損壊等業務妨害罪、私用文書等毀棄罪など
勤怠や売上のデータを書き換えて、手当や成績を水増しした電磁的記録不正作出罪、詐欺罪など

たとえば社員30人の卸売業では(架空の例)

営業担当が退職して2週間後、顧客管理クラウドに深夜のログインがありました。ログインしたのは退職者のIDで、顧客一覧が書き出されていました。情報システムの担当はおらず、総務が兼務しています。

この場合、会社が「どの罪か」を決める必要はありません。やるべきことは、退職時にIDを止めていなかった事実を含めて、記録を残すことです。不正アクセス禁止法では、会社がIDとパスワードできちんと利用を制限していることが前提になります。退職時のアカウント停止は、法的に守られるための土台でもあります。

不正が疑われたら、会社は何をする?

慌てて本人を問い詰めたり、パソコンを初期化したりすると、証拠が失われます。次の順番で進めてください。

  1. 被害の拡大を止める:該当アカウントを停止し、パスワードを変えます。ただし、ログや端末そのものは消しません。
  2. 証拠を残す:ログイン記録、操作ログ、メール、該当のパソコンを保全します。読み方は原因の切り分けと復旧にまとめています。
  3. 時系列のメモを作る:いつ、誰が、何に気づき、何をしたかを書きます。後で警察や弁護士に説明する材料になります。
  4. 警察に相談する:都道府県警察のサイバー犯罪相談窓口に相談します。持っていく物は警察への被害相談の手引きを参考にしてください。
  5. 弁護士に相談する:告訴、損害賠償、懲戒処分の進め方は、個別の判断が必要です。
  6. 個人情報が関係するか確かめる:漏えいのおそれがあれば、個人情報保護委員会への報告が必要になる場合があります。

私用文書等毀棄罪のように、被害者の告訴がないと起訴できない罪(親告罪)もあります。告訴には期間の制限があるため、早めに弁護士に相談すると安心です。再発を防ぐ仕組みは内部不正を防ぐで扱います。

チェックシートではこう聞かれる

よくある設問答え方の例
退職者のアカウントを速やかに無効化していますか。はい。退職日の業務終了時に、総務が全サービスのアカウントを停止し、停止日を台帳に記録しています。
内部不正が疑われる場合の対応手順を定めていますか。はい。証拠保全、警察と弁護士への相談、取引先への連絡の順番を、インシデント対応手順に定めています。
操作ログを取得し、一定期間保存していますか。はい。クラウドサービスのログイン記録と操作ログを1年間保存し、削除できる権限を管理者1名に限っています。
従業員に、不正行為の禁止と罰則を周知していますか。いいえ。現在は就業規則に一般的な規定のみです。〇月までに情報管理規程を作り、入社時に説明する予定です。

退職者のアカウント管理は、ほぼすべてのチェックシートに出る設問です。棚卸しのやり方はアカウント棚卸しの手引きを参考にしてください。

試験ではここが問われる

SG・支援士・CISSP 1

  • 不正指令電磁的記録に関する罪:作成・提供・供用・取得・保管が対象。「正当な理由がないのに」が要件で、対策ソフトの開発などは罪にならない。
  • 電子計算機使用詐欺罪と詐欺罪:人をだませば詐欺罪、機械に偽の情報を入れて利益を得れば電子計算機使用詐欺罪。
  • 電子計算機損壊等業務妨害罪:データの破壊や偽の指令で業務を妨害する罪。DoS攻撃で業務を止める行為もこれに当たりうる。
  • 刑法と不正アクセス禁止法の区別:他人のIDとパスワードの無断入力は不正アクセス禁止法。刑法の罪とは別の法律。
  • 拘禁刑:2025年6月から懲役と禁錮は拘禁刑に一本化。古い教材の「懲役」は読み替える。

確認問題

問1 刑法の「不正指令電磁的記録に関する罪」について述べた文として、最も適切なものはどれですか。

  1. ア ウイルスを作成した場合だけが処罰の対象になる
  2. イ 正当な理由がある場合でも、ウイルスを保管すれば処罰される
  3. ウ 人のパソコンで実行させる目的で、ウイルスを取得・保管する行為も処罰の対象になる
  4. エ 他人のパスワードを無断で入力してログインする行為を処罰する規定である
答えと解説
正解:ウ 作成・提供・供用に加え、取得・保管も対象です(第168条の3)。アは対象を狭く捉えすぎています。イは「正当な理由がないのに」という要件を無視しています。エは不正アクセス禁止法の内容です。

問2 社員25人の工務店(架空)で、経理担当者がネットバンキングの振込データに自分の口座番号を入力し、会社の預金を送金させていました。上司や銀行員をだました事実はありません。この行為に最も関係が深い刑法の罪はどれですか。

  1. ア 詐欺罪
  2. イ 電子計算機使用詐欺罪
  3. ウ 不正指令電磁的記録作成罪
  4. エ 私用文書等毀棄罪
答えと解説
正解:イ 人をだまさず、コンピュータに偽の情報を入れて利益を得ているため、電子計算機使用詐欺罪が関係します。人をだましていないので詐欺罪には当たりにくいです。ウはウイルスに関する罪、エはデータを消す罪です。なお、業務上横領罪など他の罪が問題になる場合もあります。

問3 社内で、元社員によるデータ削除が疑われました。会社が最初に取る行動として、最も適切なものはどれですか。

  1. ア 再発を防ぐため、共有サーバーをすぐに初期化して作り直す
  2. イ 元社員に連絡し、謝罪と弁償を求める
  3. ウ 関係するアカウントを止めたうえで、ログや端末を消さずに保全する
  4. エ 罪名が分かるまで、誰にも相談せず社内だけで調べる
答えと解説
正解:ウ 被害の拡大を止めつつ、証拠を残すことが最初の一歩です。アは証拠を失います。イは証拠隠しや紛争を招くおそれがあり、進め方は弁護士に相談します。エのように罪名を会社が決める必要はなく、早めに警察と弁護士に相談します。

よくある質問

退職者が元のIDでログインしただけでも、犯罪になりますか?
不正アクセス禁止法違反に当たる可能性があります。会社が許していないのに、他人や退職後の自分のIDとパスワードを入力してログインする行為は、同法の「不正アクセス行為」に当たりうるためです。実際に当たるかは個別の事実しだいなので、記録を残したうえで警察や弁護士に相談してください。
社内で起きた不正は、警察に相談すべきですか?
被害がはっきりしている場合は、相談をおすすめします。相談しても、すぐに事件化されるとは限りません。告訴するかどうか、社内処分とどう並べるかは、弁護士と相談して決めます。
セキュリティの検証のためにウイルスを保管するのは違法ですか?
正当な理由があれば、罪にはなりません。条文が「正当な理由がないのに」と定めているためです。ただし、検証の目的と範囲を社内で記録し、外部に渡さない管理をしておくと、説明がしやすくなります。

この記事のまとめ

不正が疑われたときの順番を、一人で背負わずに進める

Moshiruは、打合せなしでテキストだけでお受けします。不正アクセスやデータ削除が疑われるとき、何を止めて何を残すかを、文面で順番にお伝えします。警察や弁護士に渡す時系列メモの整理もお手伝いします。法的な判断は弁護士にご相談ください。

インシデントが起きたら相談する24時間受付・30分以内に返信メニューにないことを頼む文面で合意するまで料金はかかりません

参考にした資料

  1. e-Gov法令検索「刑法」(明治40年法律第45号、2026年10月時点の条文)
  2. e-Gov法令検索「不正アクセス行為の禁止等に関する法律」(平成11年法律第128号)
  3. 裁判所「最高裁判所第一小法廷 令和4年1月20日判決(令和2(あ)457 不正指令電磁的記録保管被告事件)」
  4. 法務省「法務省だより あかれんが vol.89」拘禁刑の導入(2025年6月)