Moshiru

会社のセキュリティ教科書 第10部 10-7

営業秘密の3要件とは|著作権法とあわせて顧客リストとノウハウを守る

公開:2026年10月15日/最終更新:同/Moshiru 岡﨑 悠太

こんなときに役立ちます

  • 顧客リストやノウハウの持ち出しを、法的に守れる形にしたいとき
  • 退職する社員が、取引先の情報を持って同業に移りそうで不安なとき
  • 外注して作ったホームページやプログラムの権利が、どちらにあるのか確かめたいとき

読み終えたあと、社内でこう言えます

「顧客リストを、営業秘密として守れる管理に整えました」

結論:営業秘密とは、秘密として管理され、事業に役立ち、世間に知られていない情報のことです。不正競争防止法は、この3つの要件(秘密管理性・有用性・非公知性)をそろえた情報だけを営業秘密として守ります。顧客リストは大事な情報でも、「社外秘」と分かる管理をしていなければ守られないおそれがあります。一方、文章やプログラムは著作権法でも守られますが、名簿のような事実の集まりは守られにくいのが実情です。持ち出されてから慌てるのではなく、普段の管理で「秘密だと分かる状態」を作っておくことが要点です。

営業秘密として守られるには、秘密管理性・有用性・非公知性の3つの要件をすべて満たす必要がある

営業秘密とは?3つの要件を会社の言葉で言うと

不正競争防止法の第2条第6項は、営業秘密を次のように定めています。「秘密として管理されている生産方法、販売方法その他の事業活動に有用な技術上又は営業上の情報であつて、公然と知られていないもの」です。この一文に、3つの要件が入っています。

要件意味会社でやること
秘密管理性会社が「秘密だ」と示して管理していて、社員にもそれが分かること「社外秘」の表示、閲覧できる人の制限、誓約書
有用性事業に役立つ情報であること。失敗した実験の記録も含まれうる守る情報を台帳に書き出し、何に使うかを決める
非公知性世間で知られておらず、普通は手に入らないことホームページや展示会で公開した内容と分けて管理する

3つのうち、裁判で最も争われやすいのが秘密管理性です。経済産業省の「営業秘密管理指針」(2025年3月改訂)も、多くの紙幅をこの要件に割いています。この改訂では、テレワークやクラウドの広がりなど、情報の管理方法の変化が反映されました。

「大事な情報」と「営業秘密」は同じではない

社長が「うちの顧客リストは宝だ」と思っていても、それだけでは営業秘密になりません。たとえば、共有フォルダに誰でも開ける状態で置き、表示もなく、印刷も自由だったとします。この場合、社員から見て秘密だと分からないため、秘密管理性が認められないおそれがあります。法律で守られるかどうかは、普段の管理で決まるのです。

秘密管理性を満たすには、何をすればいい?

大企業のような厳しい仕組みは要りません。営業秘密管理指針の考え方は、会社の規模や情報の性質に合わせた「合理的な」管理で足りる、というものです。中小企業なら、次の順番で進めると無理がありません。

  1. 守る情報を決める:顧客リスト、原価表、製造の条件、見積もりの計算式などを書き出します。情報の洗い出しは情報資産台帳のつくり方が使えます。
  2. 秘密だと表示する:ファイル名やフォルダ名、書類の右上に「社外秘」と入れます。
  3. 見られる人を絞る:共有フォルダやクラウドのアクセス権を、必要な部署だけにします。
  4. 規程と誓約書を用意する:就業規則や情報管理規程に秘密保持を書き、入社時と退職時に誓約書をもらいます。
  5. 持ち出しの記録を残す:USBメモリへの書き出しや、私物クラウドへの保存を制限し、操作の記録を残します。
  6. 退職時に確認する:貸与したパソコンや資料を回収し、アカウントを止め、持ち出していないかを確かめます。

持ち出しを技術で防ぐ方法はDLPとデータマスキング、USBメモリの扱いは記録媒体の管理と廃棄にまとめています。社員の操作を記録するときの注意は、次の節の社員のモニタリングと就業規則で扱います。

たとえば社員30人の卸売業では(架空の例)

食品を扱う社員30人の卸売会社を考えます。営業部長が退職し、同業他社に移りました。その後、主要な取引先から「御社の価格表と同じ条件で、別の会社から提案が来た」と連絡がありました。

この会社では、顧客と価格の一覧を営業部の共有フォルダに置き、「社外秘」と表示し、営業部だけが開ける設定にしていました。入社時の誓約書もありました。こうした管理があれば、営業秘密として争える材料になります。逆に、全社員が開ける場所に表示もなく置いていたら、まず秘密管理性でつまずくおそれがあります。

持ち出されたら、法律で何ができる?

営業秘密を不正に取得したり、使ったり、漏らしたりする行為は、不正競争防止法で「不正競争」とされます。会社がとれる手段は、大きく民事と刑事の2つです。

手段内容条文
差止め(民事)使うことや広めることをやめさせる。記録媒体の廃棄なども求められる第3条
損害賠償(民事)受けた損害の賠償を求める。損害額を推定する規定もある第4条・第5条
刑事罰不正の利益を得る目的などでの取得・使用・開示は、10年以下の拘禁刑または2,000万円以下の罰金(併科あり)第21条第1項
会社への罰金従業者が業務として行った場合、会社にも最大5億円以下の罰金(海外での使用目的などは最大10億円以下)第22条

最後の行は、自社が加害者側になる場合にも関わります。中途採用した人が前の会社の情報を持ち込めば、受け入れた会社も責任を問われかねません。採用時に「前職の秘密情報を持ち込まない」と誓約してもらうのは、そのためです。

実際の対応は、証拠の残し方や時効などで結論が変わります。疑いが出た段階で、記録を消さずに保全し、弁護士に相談してください。社員による不正の疑いについては刑法のサイバー犯罪も参考になります。

漏えいはどこから起きているか

情報処理推進機構(IPA)は2025年8月に「企業における営業秘密管理に関する実態調査2024」を公表しました。過去5年以内に営業秘密の漏えいを認識している回答は35.5%でした。漏えいのルート(複数回答)は、次のように内外にまたがっています。

サイバー攻撃と人の両方への備えが必要だと分かります。人の面の仕組みは内部不正を防ぐ仕組みで詳しく扱います。

著作権法は、「思想又は感情を創作的に表現したもの」(第2条第1項第1号)を著作物として守ります。登録しなくても、作った時点で権利が生まれます。会社の実務では、次の3つの場面でよく問題になります。

場面ポイント
社員が仕事で作ったもの会社の発意で、職務として作り、会社名義で公表するものは、原則として会社が著作者になる(職務著作、第15条)。プログラムは会社名義で公表しなくても会社が著作者になりうる。
外注して作ったものホームページやプログラムの著作権は、契約に書かなければ作った外注先に残るのが原則。譲渡の契約でも、改変などの権利(第27条・第28条)を明記しないと、外注先に残ると推定される(第61条第2項)。
他人の著作物を使うとき写真やイラスト、ソフトウェアを無断で使うと侵害になる。故意の侵害には10年以下の拘禁刑または1,000万円以下の罰金(第119条)、会社には3億円以下の罰金(第124条)がある。

外注の契約で権利の扱いを決める方法は、委託契約とNDAで扱います。生成AIと著作権については、文化審議会著作権分科会法制度小委員会が「AIと著作権に関する考え方について」(2024年3月)をまとめています。社内での使い方のルールはシャドーITと生成AIの社内ルールを参考にしてください。

著作権と営業秘密の違いは?顧客リストはどちらで守る?

2つの法律は、守る対象も、守られる条件も違います。比べると次のとおりです。

比べる点著作権営業秘密
守る対象表現(文章・画像・プログラムなど)情報そのもの(顧客、価格、製法など)
守られる条件創作性があれば、作った時点で自動的に3つの要件をすべて満たすこと
公開との関係公開しても守られる公開すると非公知性を失う
会社がすること権利の帰属を契約と規程で決める秘密として管理し続ける

顧客の名前や電話番号を並べただけの名簿は、事実の集まりで、創作性が認められにくいものです。そのため、顧客リストは主に営業秘密として守ると考えるのが実務的です。ノウハウや製造条件も同じです。一方、マニュアルの文章や自社開発のプログラムは、両方で守れることがあります。

チェックシートではこう聞かれる

よくある設問答え方の例
従業員と秘密保持の誓約書を取り交わしていますか。はい。入社時と退職時に、業務で知った情報を漏らさない旨の誓約書を取得しています。
秘密情報を一般の情報と区別して管理していますか。はい。「社外秘」と表示し、共有フォルダのアクセス権を担当部署に限っています。
退職者による情報の持ち出しを防ぐ手順はありますか。はい。退職日に貸与機器を回収し、アカウントを停止し、持ち出しがないことを確認しています。
委託先との間で成果物の権利の帰属を定めていますか。いいえ。現在は定めておらず、〇月の契約更新から著作権の譲渡を条項に入れる予定です。

「いいえ」の場合も、予定と代わりの対策を書けば誠実な回答になります。書き方はチェックシートの回答の書き方を参考にしてください。

試験ではここが問われる

SG・支援士・CISSP 1

  • 営業秘密の3要件:秘密管理性・有用性・非公知性。1つでも欠けると営業秘密として保護されません。
  • 営業秘密を定める法律:著作権法でも特許法でもなく、不正競争防止法です。ドメイン名の不正取得も同じ法律の不正競争に当たります。
  • 職務著作:法人の発意・職務上の作成・法人名義での公表などの条件を満たすと、法人が著作者になります。プログラムは公表名義の条件がありません。
  • 著作権の保護対象外:プログラム言語、規約(プロトコル)、解法(アルゴリズム)は保護されません(第10条第3項)。
  • 英語:Trade secret(営業秘密)、Copyright(著作権)、Work for hire(職務著作に近い考え方)。CISSPでは知的財産の種類の違いが問われます。

確認問題

問1 不正競争防止法で営業秘密として保護されるための要件の組み合わせとして、正しいものはどれですか。

  1. ア 新規性・進歩性・産業上の利用可能性
  2. イ 秘密管理性・有用性・非公知性
  3. ウ 創作性・独自性・公表性
  4. エ 機密性・完全性・可用性
答えと解説
正解:イ 営業秘密の3要件です。アは特許の要件に近い考え方、ウは著作物の考え方を混ぜたもの、エは情報セキュリティの3要素で、営業秘密の要件ではありません。

問2 社員20人の部品メーカー(架空)で、製造条件の表が全社員の閲覧できる共有フォルダに表示なしで置かれ、印刷も自由でした。退職者がこの表を持ち出した場合、営業秘密として保護を受けるうえで最も問題になりやすい要件はどれですか。

  1. ア 有用性
  2. イ 非公知性
  3. ウ 秘密管理性
  4. エ 進歩性
答えと解説
正解:ウ 表示もアクセス制限もなく、社員から秘密と分からない状態なので、秘密管理性が問題になります。製造条件は事業に役立ち(有用性)、社外に出ていなければ非公知性はあると考えられます。エは特許の要件です。

問3 外注先にホームページの制作を依頼し、契約書には「著作権を譲渡する」とだけ書きました。著作権法の規定に照らして、最も適切な説明はどれですか。

  1. ア すべての権利が自動的に発注者へ移る
  2. イ 改変などの権利(第27条・第28条の権利)は、明記がなければ外注先に残ると推定される
  3. ウ 著作権は登録しないと移らない
  4. エ 外注した成果物には著作権が発生しない
答えと解説
正解:イ 第61条第2項により、翻案権などの権利は「特掲」されていないと譲渡した側に残ると推定されます。著作権は登録しなくても移転でき(ウは誤り)、外注品にも著作権は生じます(エは誤り)。

よくある質問

顧客リストは営業秘密になりますか?
はい、3つの要件を満たせば営業秘密になります。特に「社外秘」の表示や閲覧できる人の制限など、秘密として管理していることが社員に分かる状態が必要です。管理がないと、大事な情報でも保護を受けにくくなります。
退職者が競合に転職しました。すぐに訴えられますか?
転職したこと自体は違法ではありません。問題になるのは、営業秘密を不正に持ち出したり使ったりした場合です。まずはパソコンの記録やメールなど証拠を消さずに残し、弁護士に相談してください。
営業秘密と著作権の違いは何ですか?
著作権は文章やプログラムなどの「表現」を守り、営業秘密は顧客や製法などの「情報そのもの」を守ります。著作権は作った時点で生まれますが、営業秘密は秘密として管理し続けることが条件です。公開すると営業秘密ではなくなる点も大きな違いです。

この記事のまとめ

秘密保持の設問は任せて、中身の確認だけに

Moshiruは、打合せなしでテキストだけでお受けします。取引先のセキュリティチェックシートで、秘密保持や持ち出し対策の設問が並んだとき、御社の実態に合わせた回答を作ってお返しします。まだできていない項目には、予定と代わりの対策の書き方も添えます。

回答代行を見る20問まで1.5万円・打合せなしメニューにないことを頼む文面で合意するまで料金はかかりません

参考にした資料

  1. e-Gov法令検索「不正競争防止法」(平成5年法律第47号)第2条第6項・第3条〜第5条・第21条・第22条
  2. e-Gov法令検索「著作権法」(昭和45年法律第48号)第2条・第10条・第15条・第61条・第119条・第124条
  3. 経済産業省「営業秘密管理指針」(2025年3月改訂)
  4. IPA「営業秘密官民フォーラム メールマガジン」(2025年4月16日)営業秘密管理指針の改訂の紹介
  5. IPA「企業における営業秘密管理に関する実態調査2024」概要(2025年8月)
  6. 文化審議会著作権分科会法制度小委員会「AIと著作権に関する考え方について」(2024年3月)
  7. IPA「情報セキュリティマネジメント試験 シラバス」Ver.4.0(2023年12月)