Moshiru

会社のセキュリティ教科書 第4部 4-11

DLP・データマスキング・匿名化とは|情報漏えいを「仕組み」で防ぐ

公開:2026年10月15日/最終更新:同/Moshiru 岡﨑 悠太

こんなときに役立ちます

  • 顧客情報の持ち出しや誤送信を仕組みで防ぎたいとき
  • 取引先のチェックシートで「情報の持ち出し制限」や「データ漏えい防止」の設問に答えるとき
  • SGや支援士、Security+の勉強で、DLP・マスキング・匿名化の違いを実務の言葉でつかみたいとき

読み終えたあと、社内でこう言えます

「誤送信を防ぐDLPを、警告だけのモードで試し始めました」

結論:情報漏えいを仕組みで防ぐ道具は、大きく3つです。DLPは「外に出る瞬間に止める」、データマスキングは「見せる範囲を減らす」、匿名化は「誰の情報か分からなくする」道具です。中小企業は、まずメールとクラウドのDLPを警告だけのモードで試すところから始めると、業務を止めずに効き目を確かめられます。個人情報を加工して使うときは、個人情報保護法の仮名加工情報と匿名加工情報のルールが別にあります。

情報漏えいを防ぐ3つの道具:外に出る瞬間に止めるDLP、見せる範囲を減らすデータマスキング、誰の情報か分からなくする匿名化

3つの道具は、効く場面が違う

「情報漏えい対策」とひとまとめにされがちですが、3つの道具は守る場面が違います。まず全体を表で見てください。

道具一言で効く場面の例
DLP外に出る瞬間に止める顧客名簿を添付したメールの送信、USBメモリへのコピー、個人のクラウドへのアップロード
データマスキング見せる範囲を減らす画面にカード番号の下4桁だけ出す。テスト用データの氏名を別の文字に置き換える
匿名化誰の情報か分からなくする購買データを分析会社に渡す前に、氏名を消し、年齢を「40代」にまとめる

DLPは「出口」の対策です。マスキングと匿名化は、漏れたときの被害を小さくする「中身」の対策です。出口と中身の両方を組み合わせると、1つが破られても被害が広がりにくくなります。考え方は多層防御と同じです。

DLP:送る・持ち出す瞬間に止める

DLPはData Loss Preventionの略で、日本語では「情報漏えい防止」です。米国の用語集(NISTが掲載するCNSSの定義)では、使っている途中・送っている途中・保存している途中のデータを見つけ、監視し、守る仕組みとされています。

平たく言うと、「この中身は外に出してよいか」を機械が中身で判断する仕組みです。宛先や操作だけでなく、ファイルの中にマイナンバーやカード番号らしい数字の並びがあるか、といった点を見ます。

どこで見張るか

見つけたら、どうするか

DLPの動きは「止める」だけではありません。Microsoftの公式文書(Microsoft Purview DLP)では、次のような段階が用意されています。

動き社員から見ると向いている情報
警告(ポリシーヒント)「この添付には顧客情報が含まれます」と表示される。送るかは本人が決めるまず試す段階のすべて
理由を書けば送れるブロック止まるが、業務上の理由を書けば送れる。理由は記録に残る取引先に送ることもある見積もりや名簿
上書きできないブロック送れないマイナンバー、カード番号など

同じ文書は、いきなり止めずにシミュレーション(記録だけ)で始め、誤検知を確かめてから有効にすることを勧めています。いきなりブロックすると、正しい業務まで止まり、社員が抜け道を探し始めるからです。

たとえば社員30人の不動産管理会社では(架空の例)

入居者の名簿を扱う社員30人の会社を考えます。情報システムの担当はおらず、総務の1人が兼務しています。この会社なら、次の順番が現実的です。

  1. 守る情報を3つに絞る:入居者名簿、口座情報、マイナンバー。
  2. 1か月は警告だけ:社外宛てメールと社外共有で、該当する情報があれば警告を出し、記録を見る。
  3. 記録を見て調整:管理会社や修繕業者への正当な送信が多ければ、その宛先を例外にする。
  4. 強さを決める:マイナンバーは送信不可、名簿は理由を書けば送れる、にする。

DLPは宛先の間違いそのものは防げません。宛先を確かめる仕組みや、送ってしまった後の動き方はメールを誤送信したときの手引きにまとめています。

データマスキング:見せる範囲を減らす

データマスキングは、データの一部を隠したり、別の値に置き換えたりして、必要な人に必要な分だけ見せる技術です。漏れたときの被害を小さくできます。

種類仕組み例
静的マスキングコピーしたデータそのものを書き換えるシステム会社にテスト用データを渡すとき、氏名と電話番号を架空の値に置き換える
動的マスキング元データはそのまま、見せるときだけ隠すコールセンターの画面では、カード番号を「****-1234」と表示する

中小企業でよくあるのは、本番の顧客データをそのままテストや研修に使うことです。外部の開発会社にデータを渡すときは、静的マスキングをしたデータを渡すと、委託先から漏れても実在の顧客には届きません。

注意点もあります。NISTのSP 800-188(2023年9月)は、単に隠すだけのツールでは、個人を特定できなくする処理として足りない場合があると注意しています。氏名を隠しても、住所・生年月日・勤務先が残っていれば、誰か分かってしまうことがあるからです。

匿名化:仮名加工情報と匿名加工情報の違い

個人情報を加工して分析や外部との連携に使う場合、日本では個人情報保護法に2つの制度があります。個人情報保護委員会の「仮名加工情報・匿名加工情報編」のガイドライン(2026年4月一部改正)に沿って整理します。

項目仮名加工情報匿名加工情報
一言でほかの情報と照らし合わせない限り、誰か分からないようにした情報誰か分からず、元にも戻せないようにした情報
主な使い道社内での分析社外への提供や他社との連携
第三者への提供原則できない(委託・共同利用などは別扱い)本人の同意なしでできる。ただし項目などの公表が要る
守ること本人を特定しようとしない。電話やメールなどの連絡に使わない本人を特定しようとしない。作ったら項目を公表する
条文法2条5項、41条・42条法2条6項、43条〜46条

加工のやり方は決まっている

仮名加工情報では、氏名などを消し、個人識別符号(マイナンバーなど)を全部消します。さらに、クレジットカード番号や、送金できるサービスのログインIDとパスワードのように、悪用されると財産の被害が出る記述も消します(法41条1項、規則31条)。

匿名加工情報は、より厳しい加工が要ります。ガイドラインは、次の5つの類型を挙げています。

  1. 特定の個人を識別できる記述(氏名など)を消す
  2. 個人識別符号を消す
  3. 情報どうしをつなぐ符号(会員番号など)を消す
  4. 特異な記述を消す(たとえば極端に高い年齢のような、ほかにほとんどいない値)
  5. データベースの性質に合わせて、その他の措置をとる

なお、「40代の購入件数は120件」のような集計した統計情報は、個人との対応が切れていれば個人情報の規制の対象外です。分析の目的が集計で足りるなら、加工情報を作らず統計にするのが一番手軽です。

漏えいの規模の目安として、個人情報保護委員会の令和7年度年次報告(2026年7月)では、民間事業者からの漏えい等の報告は17,139件でした。持っている情報を減らし、見せる範囲を減らすことは、件数の多い事故に効く対策です。

中小企業はどこから始めるか

3つを一度に入れる必要はありません。費用と手間の少ない順に並べると、次のとおりです。

  1. 守る情報を決める:顧客名簿、口座、マイナンバーなど、漏れて一番困るものを3〜5個。
  2. 契約中のサービスを確かめる:メールやクラウドの上位プランには、DLPの機能が含まれていることがあります。まず管理画面で使えるかを確かめます。
  3. DLPを警告モードで試す:社外宛てメールと社外共有から。1か月記録を見てから強さを決めます。
  4. 渡すデータをマスキングする:外部の開発会社や研修で使うデータは、置き換えてから渡します。
  5. 加工して使う前に法律を確かめる:分析や外部提供に使うなら、仮名加工情報・匿名加工情報のどちらに当たるか、ガイドラインで確かめます。

チェックシートではこう聞かれる

よくある設問答え方の例
機密情報の社外送信や持ち出しを、技術的に制限していますか。はい。社外宛てメールと社外共有でDLPを使い、顧客情報が含まれる場合は警告し、マイナンバーは送信できない設定にしています。
USBメモリなど外部記憶媒体の利用を制限していますか。いいえ。現在は規程で禁止しているのみです。〇月までに、端末の設定で書き込みを禁止する予定です。
開発やテストに本番の個人データを使っていませんか。はい、使っていません。テストには氏名と連絡先を架空の値に置き換えたデータを使っています。
個人データを加工して第三者に提供していますか。いいえ。社外に出すのは集計した統計情報のみで、個人単位のデータは提供していません。

「いいえ」の場合も、代わりの対策と予定を添えると誠実な回答になります。書き方はチェックシートの回答の書き方を参考にしてください。

試験ではここが問われる

SG・支援士・Security+ 4・AWS 5・CISSP 2

  • DLPの役割:中身を見て、機密情報の外部送信や持ち出しを検知・阻止する製品。暗号化(読めなくする)やアクセス制御(入れなくする)とは別の対策です。
  • マスキングの2種類:静的(データ自体を書き換える)と動的(表示のときだけ隠す)。本番データをテストに使う場面で問われます。
  • 仮名加工情報と匿名加工情報:仮名は「照合すれば識別できる・第三者提供は原則不可」、匿名は「識別も復元もできない・公表すれば同意なしで提供可」。どちらも識別行為は禁止です。
  • 匿名化の手法:項目削除・レコード削除・セル削除、トップ(ボトム)コーディング(例:95歳や102歳を「90歳以上」にまとめる)、k-匿名化(同じ属性の組み合わせが必ずk人以上いるように加工する)。
  • 英語:Data Loss Prevention、Data Masking、Pseudonymization(仮名化)、Anonymization(匿名化)。CISSPの資産のセキュリティ、AWSのデータ保護の分野で出ます。

確認問題

問1 DLP(Data Loss Prevention)の説明として、最も適切なものはどれですか。

  1. ア 保存したデータを暗号化し、鍵を持たない人が読めないようにする
  2. イ 送信や持ち出しの対象となるデータの中身を調べ、機密情報なら警告や阻止をする
  3. ウ 外部からの不正な通信を、ポート番号やIPアドレスで遮断する
  4. エ 削除したデータを、バックアップから元に戻す
答えと解説
正解:イ DLPは中身に着目して、外に出る瞬間に止める仕組みです。アは暗号化、ウはファイアウォール、エはバックアップからの復旧の説明です。

問2 社員40人の通販会社(架空)が、外部の開発会社に新しい会員システムを作ってもらいます。テストに使うデータとして、最も適切な扱いはどれですか。

  1. ア 本番の会員データをそのまま渡し、秘密保持契約を結ぶ
  2. イ 本番の会員データを暗号化したファイルで渡し、パスワードを同じメールで送る
  3. ウ 氏名・住所・電話番号を架空の値に置き換えた静的マスキング済みのデータを渡す
  4. エ 画面表示だけを隠す動的マスキングを設定し、本番データベースへの接続権限を渡す
答えと解説
正解:ウ データ自体を書き換えて渡せば、委託先から漏れても実在の会員には届きません。アは契約だけで技術的な対策がありません。イはパスワードを同じ経路で送っており効果が薄いです。エは本番データへの接続権限を渡しており、表示以外の方法で元データを見られるおそれがあります。

問3 個人情報保護法の「仮名加工情報」について述べた文として、最も適切なものはどれですか。

  1. ア 作成すれば、本人の同意なしに第三者へ自由に提供できる
  2. イ 元の本人を識別するために、ほかの情報と照合することが禁止されている
  3. ウ 加工すれば、氏名を残したままでもよい
  4. エ 本人に電話をかけて、追加の情報を聞くために使ってよい
答えと解説
正解:イ 仮名加工情報では、本人を識別するための照合が禁止されています(法41条7項)。第三者提供は原則できず、氏名などは消す必要があります。本人への電話などの連絡に使うことも禁止です(同8項)。

よくある質問

DLP製品を買わないと対策できませんか?
いいえ。まず、契約中のメールやクラウドのサービスにDLPの機能があるかを確かめてください。上位プランに含まれていることがあります。使えない場合も、社外宛てメールの送信前確認、USBメモリの書き込み禁止、社外共有の既定値を「社内のみ」にする設定など、今ある機能でできることは多くあります。
氏名を消せば、個人情報ではなくなりますか?
そうとは限りません。住所や生年月日、会員番号などが残っていれば、ほかの情報と照らし合わせて誰か分かることがあります。社外に出すなら、匿名加工情報の加工基準に沿うか、集計した統計情報にするのが確実です。迷ったら個人情報保護委員会のガイドラインやQ&Aを確かめてください。
警告モードのままでは意味がないのでは?
警告だけでも効き目はあります。送る直前に「顧客情報が含まれます」と出れば、多くのうっかりは止まります。また、記録を見ると「誰が、どんな情報を、どこに送っているか」が分かり、ブロックする範囲を決める材料になります。

持ち出し制限の設問は任せて、確認と提出だけに

Moshiruは、打合せなしでテキストだけでお受けします。取引先から届いたセキュリティチェックシートに、御社でいま使っている設定と規程を確かめたうえで、実態に合った回答を作ってお返しします。まだできていない項目には、代わりの対策と予定の書き方も添えます。

回答代行を見る20問まで1.5万円・打合せなしメニューにないことを頼む文面で合意するまで料金はかかりません

参考にした資料

  1. 個人情報保護委員会「個人情報の保護に関する法律についてのガイドライン(仮名加工情報・匿名加工情報編)」(平成28年11月策定、2026年4月一部改正)
  2. 個人情報保護委員会「匿名加工情報制度について」
  3. 個人情報保護委員会「令和7年度個人情報保護委員会年次報告」(2026年7月)
  4. NIST CSRC Glossary「data loss prevention」(出典:CNSSI 4009-2022)
  5. NIST「SP 800-188 De-Identifying Government Datasets: Techniques and Governance」(2023年9月)
  6. Microsoft Learn「データ損失防止について」(Microsoft Purview)
  7. IPA「試験要綱・シラバス」(情報セキュリティマネジメント試験・情報処理安全確保支援士試験)