Moshiru

会社のセキュリティ教科書 第10部 10-8

社員のモニタリングは違法?|就業規則と派遣社員の情報管理の決め方

公開:2026年10月15日/最終更新:同/Moshiru 岡﨑 悠太

こんなときに役立ちます

  • 社員の監視やモニタリングを始めるとき/派遣社員の情報管理を決めるとき
  • パソコンの操作記録やメールの確認を、就業規則にどう書けばよいか知りたいとき
  • 業務委託で来ている人に、社員と同じように指示を出してよいか迷ったとき

読み終えたあと、社内でこう言えます

「社員のモニタリングは、目的とルールを決めて周知する形にしました」

結論:社員のモニタリングとは、会社がメールやパソコンの操作、カメラの映像などを確認し、情報の扱いを見守ることです。法律で一律に禁止されてはいませんが、目的を決め、ルールにし、社員に知らせてから行うのが前提です。個人情報保護委員会のQ&Aも、目的の明示、責任者、ルールの徹底、実施の確認の4つを挙げています。派遣社員は雇い主が派遣元でも、指示を出す派遣先にも情報管理の監督が求められます。業務委託の人に直接指示を出すと、偽装請負を疑われる点にも注意が必要です。

社員のモニタリングは、目的の明示・責任者・ルールの徹底・実施の確認の4つをそろえてから始める

会社のパソコンやメールは、業務のために貸しているものです。そのため、情報漏えいや不正を防ぐ目的で利用状況を確認すること自体は、直ちに違法とはされていません。一方で、社員にもプライバシーがあります。やり方を誤ると、権利の侵害や、社員との信頼関係の悪化につながります。

個人情報保護委員会(PPC)は、個人情報保護法ガイドラインのQ&A(Q5-7)で、従業者のモニタリングの留意点を次の4つにまとめています。

  1. 目的を決めて知らせる:モニタリングの目的をあらかじめ特定し、社内規程などに定め、従業者に明示する。
  2. 責任者を決める:実施の責任者と、その権限を定める。
  3. ルールを徹底する:実施のルールを先に作り、運用する人に徹底する。
  4. 守られているか確かめる:決めたルールどおりに行われているかを確認する。

同じQ&Aは、重要な事項を定めるときは、あらかじめ労働組合などに通知し、必要に応じて協議することが望ましいとしています。労働組合がない会社でも、社員の代表に説明しておくと、後のもめごとを防げます。

「従業者」には派遣社員も含まれる

個人情報保護法の第24条は、個人データを扱う従業者を会社が監督するよう求めています。ガイドライン(通則編)は、この「従業者」に正社員だけでなく、契約社員、パート、アルバイト、取締役、派遣社員なども含めています。派遣社員にも、社員と同じ情報管理のルールを守ってもらう必要があります。

就業規則と社内規程に何を書けばいい?

労働基準法の第89条は、常時10人以上の労働者を使う会社に、就業規則の作成と労働基準監督署への届出を義務づけています。作るときや変えるときは、労働者の過半数の代表などの意見を聴き(第90条)、社員に周知します(第106条)。

労働契約法の第7条では、内容が合理的で、社員に周知された就業規則が、労働契約の内容になるとされています。つまり、モニタリングのルールは、書いて知らせて初めて社員との約束になるのです。細かい手順は、就業規則から委ねた「情報管理規程」などに書くと、変えやすくなります。

書く項目書き方の例
目的情報漏えいと不正の防止、事故の原因調査のため
対象会社が貸与するパソコン、スマホ、メール、チャット、入退室記録
方法操作の記録とメール送信の記録を自動で保存する。内容の確認は事故や不正の疑いがあるときに限る
確認できる人情報管理責任者と、責任者が指名した者に限る
保存期間記録は1年間保存し、その後消去する
私的な利用貸与機器の私的な利用は原則禁止。私物端末は対象外とする

規程の全体像は会社に必要な規程の一覧にまとめています。記録を取る仕組みそのものは、EDRとMDMやDLPの節で扱います。

たとえば社員25人の設計事務所では(架空の例)

図面を扱う社員25人の設計事務所が、操作記録の取得を始めることにしました。退職者による図面の持ち出しが心配だったからです。まず社長が「目的は図面の流出防止」と決め、総務の課長を責任者にしました。

次に情報管理規程に上の表の項目を書き、社員の代表の意見を聴いてから、全社員に説明しました。記録は自動で保存しますが、中身を見るのは持ち出しの疑いが出たときだけです。年に1回、総務課長以外が確認の記録を点検しています。この流れなら、Q&Aの4つの留意点をすべて満たせます。

やってはいけない例

懲戒の処分も、行為の内容に照らして合理的で相当でなければ無効になります(労働契約法第15条)。記録をもとに処分を考えるときは、社会保険労務士や弁護士に相談してください。

社員・派遣社員・業務委託の違いは?情報管理はだれの責任?

同じ事務所で働いていても、契約の形が違えば、だれが指示を出せるか、だれが情報管理を約束させるかが変わります。

働き方雇っている会社仕事の指示情報管理の約束のさせ方
社員自社自社が出す就業規則・誓約書
派遣社員派遣元(派遣会社)派遣先(自社)が出す派遣契約に秘密保持を定め、派遣元と協力して誓約を取る。社内ルールは派遣先から説明する
業務委託(請負・準委任)委託先委託先が出す委託契約と秘密保持契約(NDA)。指示は委託先の責任者を通す

派遣社員の情報管理で押さえる条文

労働者派遣法(労働者派遣事業の適正な運営の確保及び派遣労働者の保護等に関する法律)には、次の定めがあります。

派遣先が守らせたい秘密保持の範囲は、派遣契約に書いておくのが確実です。派遣社員の初日には、社員と同じ情報管理のルールを説明し、アカウントは個人ごとに発行します。契約が終わる日には、アカウントの停止と貸与物の回収を忘れずに行います。

業務委託の人に直接指示してもいい?偽装請負に注意

業務委託(請負など)で来ている人に、社員と同じように細かく指示を出すと、偽装請負を疑われるおそれがあります。偽装請負とは、契約は請負なのに、実態は発注者が直接指示を出す労働者派遣になっている状態です。

厚生労働省の告示「労働者派遣事業と請負により行われる事業との区分に関する基準」(昭和61年労働省告示第37号)は、請負と認められる条件を定めています。たとえば、仕事の進め方の指示や、労働時間の管理を、委託先が自ら行うことです。

場面避けたい言い方望ましい言い方
情報管理のルール委託先の作業者に直接「今日からこの手順で」と命じる委託契約にルールを書き、委託先の責任者に伝えて徹底してもらう
作業時間作業者の出退勤を自社が決める作業の期限と成果物を決め、時間の管理は委託先に任せる

セキュリティのルールを守ってもらうこと自体は、委託契約で求められます。伝える相手と経路を間違えないことが大切です。契約の書き方は委託契約とNDAで扱います。

モニタリングを始める手順

  1. 何を防ぎたいのか、目的を1〜2行で書く。
  2. 対象(機器・記録の種類)、確認できる人、保存期間を決める。
  3. 就業規則か情報管理規程に書き、社員の代表の意見を聴く。
  4. 全社員と派遣社員に、始める日と内容を説明する。
  5. 記録を確認したときは、日時・理由・確認した人を残す。
  6. 年1回、ルールどおりに運用されているかを点検し、規程を見直す。

モニタリングは、内部不正を防ぐ仕組みの一部です。「見られている」と社員が分かっていること自体が抑止になります。仕組み全体は内部不正を防ぐ仕組み、不正が起きる心理は不正のトライアングルで説明しています。

チェックシートではこう聞かれる

よくある設問答え方の例
従業員の情報機器の利用状況を記録・監視していますか。はい。目的と範囲を情報管理規程に定めて社員に周知し、操作記録を1年間保存しています。
派遣社員や委託先の要員にも、情報セキュリティのルールを適用していますか。はい。派遣社員には就業初日に社内ルールを説明し、委託先とは契約で同じ水準の管理を求めています。
就業規則に情報セキュリティに関する規定がありますか。はい。秘密保持、貸与機器の利用、違反時の懲戒を就業規則に定めています。

実態と違う「はい」は書かないでください。書き方はチェックシートの回答の書き方を参考にしてください。

試験ではここが問われる

SG・支援士

  • 就業規則:常時10人以上の労働者を使う使用者に、作成と届出の義務(労働基準法第89条)。作成・変更時は過半数の代表などの意見を聴きます。
  • 派遣の三者関係:雇用契約は派遣元と派遣労働者、指揮命令は派遣先。派遣契約は派遣元と派遣先の間で結びます。
  • 請負との違い:請負では、発注者は請負事業者の労働者に直接指揮命令できません。直接指示している実態があれば偽装請負です。
  • 従業者の監督:個人情報保護法の「従業者」には派遣社員も含まれ、派遣先にも監督が求められます。

確認問題

問1 労働者派遣における関係の説明として、最も適切なものはどれですか。

  1. ア 派遣労働者と派遣先が雇用契約を結び、派遣元が指揮命令する
  2. イ 派遣労働者と派遣元が雇用契約を結び、派遣先が指揮命令する
  3. ウ 派遣労働者と派遣先が請負契約を結び、だれも指揮命令しない
  4. エ 派遣元と派遣先が雇用契約を結び、派遣労働者が指揮命令する
答えと解説
正解:イ 雇い主は派遣元で、仕事の指示を出すのは派遣先です。派遣元と派遣先の間は労働者派遣契約です。アは関係が逆、ウとエは三者の関係を取り違えています。

問2 社員40人の物流会社(架空)が、情報漏えい防止のため、貸与パソコンの操作記録を取り始めることにしました。最初に行うこととして、最も適切なものはどれですか。

  1. ア 社員に知らせずに記録を始め、問題が起きたら公表する
  2. イ 目的と範囲を規程に定めて社員に明示し、責任者を決める
  3. ウ 全社員の私物スマホにも記録用のアプリを入れる
  4. エ 上司ならだれでも部下の記録を見られるようにする
答えと解説
正解:イ 個人情報保護委員会のQ&Aは、目的の特定と明示、責任者と権限の決定などを留意点に挙げています。アは明示がなく、ウは私物まで広げすぎ、エは見られる人を限っていない点が問題です。

問3 請負契約で常駐している委託先の作業者に関する対応として、偽装請負を疑われにくいものはどれですか。

  1. ア 発注者の課長が作業者に毎朝、作業の順番を直接指示する
  2. イ 発注者が作業者の残業を直接命じる
  3. ウ 情報管理のルールを契約に定め、委託先の責任者を通じて徹底してもらう
  4. エ 発注者が作業者の休憩時間を決める
答えと解説
正解:ウ 請負では、仕事の進め方や労働時間の管理を委託先が自ら行います。ア・イ・エは発注者が直接指揮命令しており、偽装請負を疑われます。

よくある質問

社員のメールを会社が見るのは違法ですか?
目的と方法が適切なら、直ちに違法とはされません。目的を規程に定めて社員に知らせ、見られる人と場面を限ることが前提です。目的を外れた使い方や、知らせずに日常的に読むことは避けてください。
社員10人未満なら、モニタリングのルールは要りませんか?
いいえ、ルールは必要です。就業規則の作成義務は常時10人以上ですが、モニタリングの目的と範囲を社員に知らせる必要は、人数に関係ありません。簡単な情報管理規程か、社員への通知文で始められます。
派遣社員に直接、秘密保持の誓約書を書いてもらえますか?
まず派遣契約に秘密保持の定めを入れ、派遣元と相談して進めるのが基本です。派遣社員の雇い主は派遣元なので、派遣元を通さずに進めると、もめごとの原因になります。進め方に迷うときは、派遣元や専門家に確かめてください。

この記事のまとめ

人の管理の設問を、一人で抱えずに回答する

Moshiruは、打合せなしでテキストだけでお受けします。取引先のセキュリティチェックシートで、モニタリングや派遣社員・委託先の管理を聞かれたとき、御社の実態に合わせた回答を作ってお返しします。規程がまだない項目には、予定の書き方も添えます。

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参考にした資料

  1. 個人情報保護委員会「『個人情報の保護に関する法律についてのガイドライン』に関するQ&A」Q5-7(2025年7月1日更新版)
  2. 個人情報保護委員会「個人情報の保護に関する法律についてのガイドライン(通則編)」3-4-3 従業者の監督
  3. e-Gov法令検索「労働基準法」第89条・第90条・第106条
  4. e-Gov法令検索「労働契約法」第7条・第10条・第15条
  5. e-Gov法令検索「労働者派遣事業の適正な運営の確保及び派遣労働者の保護等に関する法律」第24条の3・第24条の4・第26条
  6. 厚生労働省「労働者派遣事業と請負により行われる事業との区分に関する基準」(昭和61年労働省告示第37号)
  7. IPA「情報セキュリティマネジメント試験 シラバス」Ver.4.0(2023年12月)