Moshiru

会社のセキュリティ教科書 第12部 12-6

セキュリティアーキテクチャとは|会社全体のシステムの守り方を設計する

公開:2026年10月15日/最終更新:同/Moshiru 岡﨑 悠太

こんなときに役立ちます

  • 会社全体のシステムの守り方を、ばらばらの対策から設計し直したいとき
  • 新しいクラウドや業務システムを入れるたびに、守り方がその場しのぎになっているとき
  • CISMの新しい範囲(2026年11月から)やCISSPの第3ドメインを、会社の例でつかみたいとき

読み終えたあと、社内でこう言えます

「うちのシステムを5つの層に分けて、1枚の図に描きました」

結論:セキュリティアーキテクチャとは、会社のシステム全体をどう区切り、どこで何を守るかを示した設計図です。米国立標準技術研究所(NIST)は、これを会社全体の設計(エンタープライズアーキテクチャ)に組み込まれた一部と位置づけています。製品を足していくのではなく、先に区画と原則と標準の部品を決め、新しいシステムをそこに当てはめるのが要点です。中小企業なら、ID・端末・ネットワーク・クラウド・データの5つの層で1枚の図にするところから始められます。

会社全体の守り方を、ID・端末・ネットワーク・クラウドとアプリ・データの5つの層で設計図にする

セキュリティアーキテクチャとは?エンタープライズアーキテクチャとの関係

アーキテクチャは「設計の骨組み」のことです。会社全体の業務・情報・システムの骨組みをエンタープライズアーキテクチャ(EA)と呼び、その中の守りの部分がセキュリティアーキテクチャです。

項目エンタープライズアーキテクチャセキュリティアーキテクチャ
描くもの業務、情報、システム、技術のつながり区画、信頼の境界、守りの部品の置き場所
問い事業を回すために、何がどうつながるかそのつながりのどこで、誰が、何を守るか
成果物の例業務の流れ図、システムの一覧と連携図区画を書き込んだ構成図、設計原則、標準の部品の一覧

NISTのSP 800-37 第2版などは、セキュリティアーキテクチャを、システムをセキュリティの区画(ドメイン)に分け、区画の中と間でどう方針を守らせるかを示す見取り図、と定義しています。区画とは、同じ守り方を当てはめる範囲のことです。

CISMの試験範囲にも加わった

米国に本部を置く専門家団体ISACAは、2026年9月10日、資格CISMの出題範囲の改訂を発表しました。2026年11月3日からの試験に、「エンタープライズアーキテクチャ」と「情報セキュリティアーキテクチャ」の2つの内容が加わります。セキュリティの管理者も、自社の技術の骨組みを理解する必要がある、という理由です。

設計の手法としては、事業の要求から守りを組み立てるSABSA(Sherwood Applied Business Security Architecture)や、EAの手法TOGAF(The Open Groupの標準)が知られています。中小企業がそのまま使う必要はなく、名前を知っておけば十分です。

ばらばらの対策では何が困る?

多くの会社の守りは、事故や取引先の要請があるたびに、製品を1つずつ足してできています。その結果、次のような困りごとが起きます。

たとえば社員60人の食品卸では(架空の例)

10年かけて、社内のファイルサーバー、VPN、クラウドのメール、受発注のクラウドサービス、倉庫のタブレットを順に入れてきた会社です。総務の2人が兼務で管理しています。

  1. 抜けがある:倉庫のタブレットだけ、更新と紛失時の管理の仕組みがない。
  2. 重なりがある:ウイルス対策の製品が部署ごとに違い、費用も管理の手間も二重になっている。
  3. 入口がばらばら:サービスごとにIDとパスワードが別で、退職者のアカウントが残る。
  4. 境界があいまい:VPNでつなぐと、社内のすべての機器に届いてしまう。
  5. 説明できない:取引先から構成図を求められても、全体を1枚で示せない。

設計図があれば、新しいシステムを入れるときに「どの区画に置き、どの標準の部品を使うか」を決めるだけで済みます。判断が毎回ゼロからにならないことが、アーキテクチャの一番の効き目です。

設計の原則は?最小権限・多層防御・ゼロトラストなど

設計図を描くときは、先に原則を決めておきます。次の表は、ISC2の資格CISSPの出題範囲(2024年4月から有効)にある「安全な設計の原則」から、中小企業に関わりの深いものを選んだものです。

原則一言で会社での例
最小権限必要な人に、必要な分だけ経理のフォルダは経理だけが開ける
多層防御1つ破られても次で止めるメールの検査、端末の検知、バックアップを重ねる
安全な初期設定何もしなくても安全な状態から始める共有リンクは「社内だけ」を初期値にする
安全側に倒れる壊れたときは閉じる側に認証の仕組みが止まったら、誰でも入れる状態にしない
職務の分離1人で完結させない振込の登録と承認を別の人にする
単純で小さく仕組みは少なく分かりやすくログインの入口を1つにまとめる
ゼロトラスト社内でも毎回確かめる社内の端末からでも、ログインのたびに本人と端末を確認する
責任共有クラウド事業者と自社で守る範囲を分ける設定とアカウントの管理は自社の責任と決める

多層防御は多層防御とセキュリティバイデザイン(1-7)、ゼロトラストはゼロトラスト(12-2)で詳しく扱います。NISTのSP 800-207(2020年8月)は、ゼロトラストを、守りの中心を固定されたネットワークの境界から、人・端末・データに移す考え方としています。

会社全体の設計図はどうつくる?6つの手順

大がかりな手法を使わなくても、次の順で進めれば、中小企業でも最初の設計図をつくれます。

  1. 業務と情報を書き出す:主な業務、そこで使う情報とシステムを一覧にする。情報資産台帳(5-1)がそのまま土台になります。
  2. 区画を決める:「社外に公開」「社員みんなが使う」「経理や設計など限られた人だけ」「機械や設備の制御」のように、守り方が同じ範囲ごとに分ける。
  3. 信頼の境界を書き込む:区画と区画の間、社内とクラウドの間で、何を確かめて通すかを決める。
  4. 標準の部品を決める:ログインの仕組み、端末の管理、ログの置き場所、バックアップの方式を、会社で1つずつに絞る。
  5. 今との差を移行計画にする:標準から外れているシステムを並べ、年ごとに置き換える順番を決める。
  6. 入れる前に設計を確かめる:新しいシステムを入れるときは、区画と標準の部品に合うかを、申請の段階で確かめる。

2つ目の区画分けは、ネットワークの分け方にもつながります。具体的な分け方はネットワークの分け方を参考にしてください。6つ目は、作るシステムならセキュアな設計・開発(12-1)の考え方と同じです。

中小企業の設計図の例:5つの層

設計図は、層ごとに「標準」を1行で書くと、社内でも取引先にも伝わります。次の表は、クラウドを中心に使う中小企業の例です。

層決める標準の例関係する節
ID(誰か)ログインの入口を1つにまとめ、多要素認証かパスキーを必須にするパスキー
端末会社の端末だけを業務に使い、更新と紛失時の管理を一元化するEDR・MDM
ネットワーク区画ごとに分け、社外からは必要なシステムにだけ届くようにするネットワークの分離
クラウドとアプリ使ってよいサービスを一覧にし、選ぶ基準と責任の範囲を決めるクラウドの選び方、AWS
データ重要度で分類し、置き場所、暗号化、バックアップの方式を決めるバックアップ

この5つの層を横切る形で、ログと監視、事故のときの復旧をどこで担うかも書き添えます。どの層にも標準がない所が、次に手を入れる場所です。

チェックシートではこう聞かれる

よくある設問答え方の例
ネットワーク構成図やシステム構成図を作成し、最新の状態に保っていますか。はい。全社の構成図を作り、システムを入れ替えるたびに更新しています。最終更新は〇月です。
重要な情報を扱うシステムを、ほかのネットワークと分けていますか。はい。経理と設計のシステムは別の区画に置き、許可した端末からだけ接続できるようにしています。
新しいシステムやクラウドを導入するとき、セキュリティ要件を確認していますか。はい。導入の申請時に、ログインの方式、データの置き場所、責任の範囲を確認表で確かめています。
クラウド事業者と自社の責任の範囲を明確にしていますか。いいえ。主要なサービスは利用規約を確認済みで、〇月までに一覧表にまとめる予定です。

構成図を求められたときは、機器の型番まで出す必要はありません。区画と接続の向きが分かる程度にまとめ、出しすぎないことも大切です。

試験ではここが問われる

CISM(2026年11月からの新範囲)・CISSP 3・Security+ 3

  • セキュリティアーキテクチャの位置づけ:エンタープライズアーキテクチャに組み込まれた一部で、事業の目的と整合させる。技術だけで決めるものではありません。
  • 安全な設計の原則:最小権限、多層防御、安全な初期設定、安全側に倒れる(fail securely)、職務の分離、単純で小さく、ゼロトラスト、プライバシー・バイ・デザイン、責任共有。
  • 紛らわしい対:「安全側に倒れる(fail securely、fail closed)」は故障時に閉じる設計です。可用性を優先して開いたままにする設計(fail open)と対にして覚えます。
  • セキュリティモデル:ベル・ラパドゥラは機密性のモデル(上の階層は読まない、下の階層へは書かない)、ビバは完全性のモデル(下の階層は読まない、上の階層へは書かない)です。
  • 手法の名前:SABSAは事業から組み立てるセキュリティアーキテクチャの手法、TOGAFはEAの手法として名前が問われます。

確認問題

問1 認証の仕組みが故障したとき、誰もログインできない状態になるよう設計しました。この考え方に最も近い設計の原則はどれですか。

  1. ア 最小権限
  2. イ 安全側に倒れる(fail securely)
  3. ウ 職務の分離
  4. エ 責任共有
答えと解説
正解:イ 故障したときに開く側ではなく閉じる側に倒す考え方です。アは権限を必要な分に絞ること、ウは1人で完結させないこと、エはクラウド事業者と利用者の責任分担のことです。

問2 社員50人の設計事務所(架空)では、新しいクラウドサービスを入れるたびに、担当者がその都度ログインの方式やデータの置き場所を考えています。全社のセキュリティアーキテクチャの考え方に沿った改善として、最も適切なものはどれですか。

  1. ア サービスごとに最も評判のよい製品を、部署ごとに選ばせる
  2. イ 区画と標準の部品(ログインの入口、端末管理、バックアップの方式)を先に決め、新しいサービスはそれに合うかを導入前に確かめる
  3. ウ クラウドサービスの利用をすべて禁止する
  4. エ 導入後に事故が起きたサービスだけ、守り方を見直す
答えと解説
正解:イ 先に設計図と標準を決め、新しいシステムを当てはめるのがアーキテクチャの考え方です。アは重なりと抜けを生みます。ウは事業を止めてしまい、エは事故が起きるまで設計がないままです。

問3 完全性を守ることを目的としたセキュリティモデルはどれですか。

  1. ア ベル・ラパドゥラモデル
  2. イ ビバモデル
  3. ウ 多層防御
  4. エ 責任共有モデル
答えと解説
正解:イ ビバモデルは、信頼度の低い情報で正しい情報が汚されないようにする完全性のモデルです。アは機密性のモデルです。ウは設計の原則、エはクラウドの責任分担の考え方で、セキュリティモデルではありません。

よくある質問

社員が少ない会社にも、セキュリティアーキテクチャは必要ですか?
はい、規模に合った形で必要です。1枚の構成図に区画を書き込み、ID・端末・ネットワーク・クラウド・データの標準を1行ずつ決めるだけでも、立派な設計図になります。新しいシステムを入れるときの判断が速くなります。
ネットワーク構成図がない場合は、何から始めればよいですか?
まず、使っているシステムとクラウドサービスの一覧をつくります。次に、それぞれを誰がどこから使うかを書き、線でつなぎます。機器の細かい設定より、情報の置き場所と入口が分かることを優先してください。
ゼロトラストとセキュリティアーキテクチャは、どう違いますか?
ゼロトラストは設計の原則の1つで、セキュリティアーキテクチャはそれを含む会社全体の設計図です。ゼロトラストを取り入れる場合も、どの区画にどう当てはめるかは、設計図の中で決めます。

この記事のまとめ

外から見える入口を確かめて、設計図に書き足す

Moshiruは、打合せなしでテキストだけでお受けします。設計図を描く前に、御社のサイトやサービスが外からどう見えているかを、許可をいただいた範囲で確かめてお返しします。公開しているつもりのない入口が見つかれば、それが最初に区画を見直す場所です。

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参考にした資料

  1. NIST CSRC Glossary「security architecture」(SP 800-37 Rev. 2、SP 800-39、SP 800-160 Vol. 1 Rev. 1 の定義)
  2. NIST CSRC Glossary「enterprise architecture」
  3. NIST「SP 800-207 Zero Trust Architecture」(2020年8月)
  4. ISACA「ISACA Updates CISM Exam Content Outline」(2026年9月)
  5. ISC2「CISSP Certification Exam Outline」(2024年4月から有効)
  6. The Open Group「The TOGAF Standard」(2026年10月閲覧)
  7. The SABSA Institute「SABSA」(2026年10月閲覧)
  8. IPA「中小企業の情報セキュリティ対策ガイドライン」第4.0版(2026年3月)